私が歯科技工所に勤務してから、無謀にも5年足らずで開業したという話ですが・・・
私が歯科技工士という仕事を選んだ理由の一つには、個人で開業できるということがありました。
医療関係の仕事で医師や歯科医師以外で個人開業が出来る職種としては、薬剤師と歯科技工士がありますが、歯科技工士という仕事は、とても敷居が低く誰でもなれる職種なので開業もしやすいのです。
極端なことを言えば、歯科技工士学校(昼間2年・夜間3年)を卒業後、国家試験に合格してさえいればすぐにでも開業できます。
もっとも学校を出たばかりでは、何の技術も無いので実質的には無理ですが、すでに歯科技工の仕事をやっていた人であればそれも可能なのです。
当時は5年ほど技工所や歯科医院に勤めてから開業というパターンが多かったですが、本来であれば、そんなに短い期間で技術を習得することは不可能なのです。
歯科技工という仕事は本来そんなに甘い仕事ではありません。
技術の高い技工所や歯科医院に勤務して、歯科医や先輩の歯科技工士、歯科衛生士とともに常に勉強をして、研修会などにも積極的に参加しなければまともな歯科技工士になることはできません。
歯科医療の現場というのは、優秀な歯科医+優秀な歯科衛生士+優秀な歯科技工士が協力しあってこそ成り立つものなのです。
正直、常に前向きに勉強をしていくという勤勉さがなければやっていける仕事ではありません。
そして、仕事自体も相当過酷なものですし、場合によっては徹夜も覚悟しなければなりません。
なおかつ、技術的にも基本的に器用でなければ出来ませんし、常に最先端の歯科医療を学んでいかなければなりません。
そこを勘違いして、我われの時代には歯科技工士という職種は「すぐにでも稼ぐことが出来る仕事である」ということばかりが強調されていました。
実際に技工士学校を卒業して数年で開業する技工士が多く存在しました。
かくゆう私もその1人だったのです。
それでも、当時はバブル期まっさかりでしたので、いくらでも仕事はあり、月に数十万円程度であればすぐに誰にでも稼ぐことが出来ました。
開業も保健所に届出を出して審査が通ればそれでOKです。
当時は審査自体もとてもゆるかったので、私の場合、賃貸アパートの一室でコンプレッサーと簡易鋳造機のみから始めました。
基本的には技工士学校で教材として使っていた道具のみでの開業です。
それでも歯科技工の最低限の仕事はできました。
もちろん、現在ではとても無理でしょうけど・・・
もともと、歯科技工士という職種を選んだ理由は・・すぐに稼げる、すぐに開業できる、苦労するような人間関係が少ないという不順な動機でしたので私は駄目技工士の典型でした。
それでも、仕事が山のようにあり、お金に苦労したことはありませんでした。
自営ですから好きな時に仕事をすることが出来たので、東京にいた頃は独身ということもあり自由きままな毎日で、大好きな音楽に没頭することもできました。
そんな頃、静岡に住んでいた母親が長野に移り住むことになり、私も長野に仕事の場を移しました(母親が1人暮らしだったので)。
しばらく母親との生活が続きましたが、母親が脳梗塞で亡くなり、現在住んでいる長野県の上田市というところに移り住みました。
その頃に建てた現在の家のローンが、今でも大きくのしかかっています。